宅建士試験過去問 権利関係 意思表示 1-3 平成14年
AがBの欺罔行為によって、A所有の建物をCに売却する契約をした場合に関する次の記述のうち、民法の規定及び判例によれば、誤っているものはどれか?
1、Aは、Bが欺罔行為をしたことを、Cが知っている時でないと、売買契約の取り消しをすることができない。
2、AがCに所有権移転登記を済ませ、CがAに代金を完済した後、詐欺による有効な取消が為されたときには、登記の抹消と代金の返還は同時履行の関係になる。
3、Aは、詐欺に気づいていたが、契約に基づき、異議を留めることなく、所有権移転登記手続きをし、代金を請求していた場合、詐欺による取消をすることができない。
4、Cが当該建物を詐欺について善意のDに転売して、所有権移転登記を済ませても、Aは、詐欺による取消をして、Dから建物の返還を求めることができる。
胡桃「宅建試験らしいレベルの問題だわ。正解は分かるかしら?」
建太郎「むうっ……。これは難しいな」
胡桃「難しくないわ。一見、レベルの高い選択肢が含まれているように見えるけど、正解の選択肢は条文レベルよ。確実に得点したい問題ね。まず、これが何の問題なのか分かるわね?」
建太郎「分かるよ。詐欺取消の問題だろ。民法の……」
(詐欺又は強迫)
第九十六条 詐欺又は強迫による意思表示は、取り消すことができる。
2 相手方に対する意思表示について第三者が詐欺を行った場合においては、相手方がその事実を知っていたときに限り、その意思表示を取り消すことができる。
3 前二項の規定による詐欺による意思表示の取消しは、善意の第三者に対抗することができない。
建太郎「今回の問題は、2項の場合だよな。第三者が欺罔行為を行った場合は、相手方がその事実を知っていた場合だけ、取消ができると」
胡桃「そうね。それを理解したうえで、選択肢を一つ一つ見ていくわよ。選択肢の1は、条文そのままの出題ね」
建太郎「そうだな。これはさすがに分かるよ。選択肢2は?」
胡桃「これも契約が取り消されたら、どういう関係になるか?という基本的な知識が備わっていれば、正誤を判断できるわ。契約が取り消されるとどうなるか分かっているわよね?」
建太郎「ええっと……。お互いに原状回復義務を負うんだよね。売主は代金を返還しなければならないし、買主は建物を返還しなければならない。登記をしていれば当然、抹消しなければならない」
胡桃「そうよ。お互いの原状回復義務は、どういう関係になるのかしら?」
建太郎「そりゃ、お互いに義務を負っている。つまり双務契約のような関係に立つわけだから、同時履行の関係だろう」
(同時履行の抗弁)
第五百三十三条 双務契約の当事者の一方は、相手方がその債務の履行を提供するまでは、自己の債務の履行を拒むことができる。ただし、相手方の債務が弁済期にないときは、この限りでない。
胡桃「それが分かっていれば、選択肢の2の正誤を判断するのは難しくないでしょ」
建太郎「2の正誤が判断できても、3がよく分からない。これって、法定追認の問題なのか?」
(追認の要件)
第百二十四条 追認は、取消しの原因となっていた状況が消滅した後にしなければ、その効力を生じない。
2 成年被後見人は、行為能力者となった後にその行為を了知したときは、その了知をした後でなければ、追認をすることができない。
3 前二項の規定は、法定代理人又は制限行為能力者の保佐人若しくは補助人が追認をする場合には、適用しない。
(法定追認)
第百二十五条 前条の規定により追認をすることができる時以後に、取り消すことができる行為について次に掲げる事実があったときは、追認をしたものとみなす。ただし、異議をとどめたときは、この限りでない。
一 全部又は一部の履行
二 履行の請求
三 更改
四 担保の供与
五 取り消すことができる行為によって取得した権利の全部又は一部の譲渡
六 強制執行
胡桃「偉いわ。法定追認に思い至ったとしたら、相当勉強している証拠ね。なでなで」
建太郎「うん。ありがとう胡桃」
胡桃「そうは言ってもこの選択肢を解くために、法定追認まで考える必要はないわ。おそらく、建太郎は、Aが、所有権移転登記手続きをし――つまり、全部又は一部の履行をしているし、代金を請求していた――履行の請求もしている。しかも、異議を留めていない。だから、法定追認となって、取り消すことができなくなると考えたのよね?」
(取り消すことができる行為の追認)
第百二十二条 取り消すことができる行為は、第百二十条に規定する者が追認したときは、以後、取り消すことができない。ただし、追認によって第三者の権利を害することはできない。
(取消権者)
第百二十条 行為能力の制限によって取り消すことができる行為は、制限行為能力者又はその代理人、承継人若しくは同意をすることができる者に限り、取り消すことができる。
2 詐欺又は強迫によって取り消すことができる行為は、瑕疵ある意思表示をした者又はその代理人若しくは承継人に限り、取り消すことができる。
建太郎「まさに、そう考えたんだよ。だからこの選択肢は正しいと」
胡桃「そうも考えられるけど、詐欺による取消って、騙された時だけにできるのよ。問題文をよく読んで。『Aは、詐欺に気づいていたが』ってあるでしょ。つまり、Aは騙されていないのよ。騙されていない以上、この契約は取り消しうるものにはならないわけで、詐欺による取消ができないのは当たり前なのよ」
建太郎「うーん……。なんか、出題者に騙された気分だ」
胡桃「次行くわよ。4はどうかしら?」
建太郎「これは、第九十六条3項の問題だよね。善意の第三者には対抗できない。おまけに、Dに所有権移転登記を済ませているんだからなおさらだ」
胡桃「そうね。ここで引っかかる人は、詐欺と強迫の違いを正確に理解していないのよね。もしも、強迫だったらどうなるか分かるかしら?」
建太郎「善意の第三者に対しても、対抗できる。つまり、Dに対して建物の返還を求めることができる」
胡桃「そうね。じゃあ、『Aは、Bが強迫行為をしたことを、Cが知っている時でないと、売買契約の取り消しをすることができないのか?』と問われたら、どう答えるかしら?」
建太郎「知っている、知らないに関わりなく、取り消しができる」
胡桃「そうね。詐欺の場合には、騙されたAにも落ち度があるから、取消できる場合が限定的になるわけね。強迫の場合は、さすがに、落ち度ありとは言えないから、未成年取消並みの取消権限を与えたということよ」
建太郎「OK」
胡桃「ちなみに、未成年者が制限行為能力を理由に取り消す場合、善意の第三者に対抗できるのかしら?」
建太郎「できるね。詐欺取消みたいに、善意の第三者に対抗できないという文言はどこにもないよ」
(未成年者の法律行為)
第五条 未成年者が法律行為をするには、その法定代理人の同意を得なければならない。ただし、単に権利を得、又は義務を免れる法律行為については、この限りでない。
2 前項の規定に反する法律行為は、取り消すことができる。
3 第一項の規定にかかわらず、法定代理人が目的を定めて処分を許した財産は、その目的の範囲内において、未成年者が自由に処分することができる。目的を定めないで処分を許した財産を処分するときも、同様とする。
(取消しの効果)
第百二十一条 取り消された行為は、初めから無効であったものとみなす。ただし、制限行為能力者は、その行為によって現に利益を受けている限度において、返還の義務を負う。
胡桃「それだけ分かっていれば、正解がどれか分かるわね」
建太郎「4だね」
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