初めての宅建士資格試験重要過去問

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宅建士試験過去問 権利関係 無権代理 1-10 平成16年

B所有の土地をAがBの代理人として、Cとの間で売買契約を締結した場合に関する次の記述のうち、民法の規定及び、判例によれば、正しいものはどれか。

1、AとBとが夫婦であり契約に関して何ら取り決めのない場合には、不動産売買はAB夫婦の日常の家事に関する法律行為の範囲内にないとCが考えていた場合も、本件売買契約は有効である。
2、Aが無権代理人である場合、CはBに対して相当の期間を定めて、その期間内に追認するか否かを催告することができ、Bが期間内に確答をしない場合には、追認とみなされ本件売買契約は有効となる。
3、Aが無権代理人であっても、Bの死亡によりがAとDともにBを共同相続した場合には、Dが追認を拒絶していても、Aの相続分に相当する部分についての売買契約は、相続開始と共に有効となる。
4、Aが無権代理人であって、Aの死亡によりBが単独でAを相続した場合には、Bは追認を拒絶できるが、CがAの無権代理につき善意無過失であれば、CはBに対して、損害賠償を請求することができる。



建太郎「なあ……。この問題。めちゃめちゃ難しくないか?」
胡桃「そうかしら?」
建太郎「だってさあ、日常の家事に関する法律行為とか、宅建のテキストに書いてなかったじゃん。宅建レベルを超えてない?」
胡桃「それでも答えは、条文レベルの選択肢なのよ。確実に得点したい問題ね。まず、1から見ていくわよ」


建太郎「まず、日常の家事ってなんだ?」
胡桃「常識で考えれば分かるでしょ。例えば、夫婦で仲良くショッピングに出かけて、夕食の食材を購入しようとしたけど、奥さんが財布を忘れたら誰がお金を払うの?」
建太郎「そりゃ、旦那さんが財布を持っていれば、旦那さんが払うべきじゃない」
胡桃「そうよ。それが、日常の家事よ。民法にはこうあるわ」

(日常の家事に関する債務の連帯責任)
第七百六十一条  夫婦の一方が日常の家事に関して第三者と法律行為をしたときは、他の一方は、これによって生じた債務について、連帯してその責任を負う。ただし、第三者に対し責任を負わない旨を予告した場合は、この限りでない。

胡桃「要するに、夕食の食材の購入みたいな、日常の家事は、夫婦が連帯責任を負うというわけよ。奥さんが金を払わなかったら、旦那さんが金を出すべきだというわけね。尤も、夫婦だからと言って、無限に連帯責任を負うわけじゃない。例えば、旦那さんが妻に無断で不動産を購入したとする。でも、その代金を支払えなかった場合、売主が、『奥さん、代わりに払ってくださいよ』と言うのはおかしいというのは分かるかしら?」
建太郎「額が大きいからね。不動産を買う時は、普通は夫婦で話し合うよな」
胡桃「そうよ。この場合は、日常の家事とは言えないから、第七百六十一条は適用されないわけね。まず、これを理解したうえで、1の選択肢を見るわよ」
建太郎「1は、旦那さんが奥さんの土地を勝手に売ったという事例だよね。つまり、無権代理?」
胡桃「そうよ。土地を売ることは、一般的には、日常の家事とは言えないから無権代理だわね。尤も、夕食の食材の購入と同じ感覚で、不動産の売買をする夫婦もいないわけではない。誰だか分かるわね?」
建太郎「不動産王と呼ばれた、俺の伯父さん――宅本健一さんだね。健一伯父さんなら、日ごろから、奥さんと『君の名義のあの土地売っておいたから』『あらそう。好きにしていいわ』みたいな会話をしていてもおかしくない」
胡桃「そうよ。そこで問題になるのが、どこまでが日常の家事と言えるのかということなのよ。常識で考えればいいという問題じゃないのね。生活のレベルによって、日常の家事の範囲は違うのよ。私たち庶民の感覚と不動産王宅本健一さんの感覚は、別次元だというのは分かるわね」
建太郎「そりゃそうだな」
胡桃「売買の相手としても、私たち庶民が土地を売りにくれば、本当に代理権限があるのか疑うでしょうし、不動産王宅本健一さんが売りにくれば、何ら疑問を持たないで、売却に応じるわよね」
建太郎「うん。そうだろうな」
胡桃「日常の家事の範囲だと思ったけど、実際はそうじゃなかった場合、相手方としては何が主張できるかしら?」
建太郎「あっ。権限外の行為の表見代理か」

(権限外の行為の表見代理
百十条  前条本文の規定は、代理人がその権限外の行為をした場合において、第三者が代理人の権限があると信ずべき正当な理由があるときについて準用する。

※前条(代理権授与の表示による表見代理
第百九条  第三者に対して他人に代理権を与えた旨を表示した者は、その代理権の範囲内においてその他人が第三者との間でした行為について、その責任を負う。ただし、第三者が、その他人が代理権を与えられていないことを知り、又は過失によって知らなかったときは、この限りでない。

胡桃「そうよ。尤も、判例は、日常の家事の代理権限を基礎として、権限外の行為の表見代理が成立するわけではないとしているわ。ただ、相手方が、その夫婦にとっては、不動産の売買が『日常の家事の範囲内だ』と信じるにつき、正当な理由がある場合は、『第百十条の趣旨を類推適用する』としているわ」
建太郎「つまり、普通の表見代理は、代理権限の範囲内かどうかで成否が決まるけど、日常の家事の場合は、日常の家事の範囲内かどうかよるというわけか」
胡桃「そうよ。それが理解出来れば、1の正誤は判断できるわね。次、2はどうかしら?」
建太郎「これは条文そのままの出題だね」

無権代理の相手方の催告権)
第百十四条  前条の場合において、相手方は、本人に対し、相当の期間を定めて、その期間内に追認をするかどうかを確答すべき旨の催告をすることができる。この場合において、本人がその期間内に確答をしないときは、追認を拒絶したものとみなす。

※前条(無権代理
第百十三条  代理権を有しない者が他人の代理人としてした契約は、本人がその追認をしなければ、本人に対してその効力を生じない。
2  追認又はその拒絶は、相手方に対してしなければ、その相手方に対抗することができない。ただし、相手方がその事実を知ったときは、この限りでない。

建太郎「催告をして、本人が追認しなかったら、追認拒絶とみなす。本人の立場に立って考えれば分かるよね。いきなり、『追認するかしないか回答してくれ』という手紙が来たとして、本人がまるで知らなかったら、『ふざけるな!』って破り捨てたくなるよね。その気持ちを察して、追認拒絶とみなすとしたんだよな」
胡桃「そうね。追認の規定を勉強すると、民法の起草者は、人間の心理をよく理解しているなあ。って感心してしまうわね。3はどうかしら?」
建太郎「あっ。これは、半分分かる。無権代理人が本人を相続した場合、無権代理人は本人の立場で、無権代理行為の追認を拒絶することはできない。当然に追認になるという判例だよね」
胡桃「そうね。無権代理人が追認拒絶するのは、あまりに身勝手――信義則に反するからよね。ただ、この選択肢は、無権代理人の単独相続ではなく、共同相続なのよ。この場合、無権代理人の相続分は、相続開始と同時に当然に追認となるのかどうかという問題ね」
建太郎「当然に追認となったら、相続関係が複雑になるよな。他の相続人のこともあるから、追認とみなすわけにはいかないんじゃない?」
胡桃「そうよ。判例も、『共同相続人全員が共同して追認しない限り、無権代理行為が有効になるものではない』としているわ。もちろん、無権代理人の分も当然に追認となるわけではない。建太郎が言った通り、相続関係が複雑になるから、好ましくないと考えたのね。じゃあ、4はどうかしら?」
建太郎「3とは逆に、無権代理人が死亡して本人が相続した場合だよね。この場合は当然に追認となるわけじゃない。と考えるべきじゃない?」
胡桃「そうね。判例も、本人が追認拒絶することもできるとしているわ。ただ、ここで注意したいことは、本人は、無権代理人を相続したことで、本人としての立場と無権代理人の立場を併有した状態にあるということね。覚えているかしら?相続を単純承認した場合はどうなるか……」
建太郎「あっ。負債も相続するんだよね」

(単純承認の効力)
第九百二十条  相続人は、単純承認をしたときは、無限に被相続人の権利義務を承継する。

胡桃「そうよ。プラスの財産だけでなく、マイナスの財産も相続してしまう。『無限に被相続人の権利義務を承継する。』という表現を押さえてね。だから、本人は、無権代理人を相続した後で、本人の立場で追認拒絶することはできるけど、無権代理人の負の部分も相続している。つまり、無権代理人の責任を免れることはできないということね」

無権代理人の責任)
第百十七条  他人の代理人として契約をした者は、自己の代理権を証明することができず、かつ、本人の追認を得ることができなかったときは、相手方の選択に従い、相手方に対して履行又は損害賠償の責任を負う。
2  前項の規定は、他人の代理人として契約をした者が代理権を有しないことを相手方が知っていたとき、若しくは過失によって知らなかったとき、又は他人の代理人として契約をした者が行為能力を有しなかったときは、適用しない。

建太郎「本人は、無権代理人の責任を追及されたくなかったら、相続放棄するべきということかな」
胡桃「そうよ。以上のことが分かれば、どれが正しいか分かるわね?」
建太郎「4だね」

ライトノベル小説で学ぶ宅建士試験基本テキストとは?

 宅建士(宅地建物取引士)資格試験の基本テキストです。

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→ ライトノベル小説で学ぶ宅建士試験基本テキスト 権利関係1

→ ライトノベル小説で学ぶ宅建士試験基本テキスト 権利関係2

→ ライトノベル小説で学ぶ宅建士試験基本テキスト 権利関係3