初めての宅建士資格試験重要過去問

解けなかったら合格できない重要過去問をピックアップしていきます

宅建士試験過去問 権利関係 解除 1-12 平成14年

Aは、A所有の土地をBに対し、一億円で売却する契約を締結し、手付金として一千万円を受領した。Aは、決済日において、登記及び引渡し等の自己の債務の履行を提供したが、Bが土地の値下がりを理由に残代金を支払わなかったので、登記及び引渡しはしなかった。この場合民法の規定及び判例によれば、次の記述のうち、誤っているものはどれか。

1、Aは、この売買契約を解除せず、Bに対し、残代金の支払いを請求し続けることができる。
2、Aは、この売買契約を解除するとともに、Bに対し、売買契約締結後解除されるまでの土地の値下がりによる損害を理由として、賠償請求できる。
3、Bが、AB間の売買契約締結後、この土地をCに転売する契約を締結していた場合で、Cがやはり土地の値下がりを理由としてBに代金の支払いをしない時、Bはこれを理由として、AB間の売買契約解除することができない。
4、Bが、AB間の売買契約締結後、この土地をCに転売する契約を締結していた場合、Aは、AB間の売買契約を解除しても、Cのこの土地を取得する権利を害することはできない。


建太郎「むむっ……。これはちょっと難しいな……」
胡桃「契約解除の総合的な問題だわね。でも問うている内容は、相変わらず、条文レベルよ。確実に得点しなければならない問題だわ。まず、手付を交付したとあるわね。手付には、三つの意味があったけど、何か覚えているかしら?」


建太郎「手付は……。証約手付、違約手付、解約手付の三つがあったよな。その中で民法に規定されているのは、解約手付」

(手付)
第五百五十七条  買主が売主に手付を交付したときは、当事者の一方が契約の履行に着手するまでは、買主はその手付を放棄し、売主はその倍額を償還して、契約の解除をすることができる。
2  第五百四十五条第三項の規定は、前項の場合には、適用しない。

※(解除の効果)
第五百四十五条  当事者の一方がその解除権を行使したときは、各当事者は、その相手方を原状に復させる義務を負う。ただし、第三者の権利を害することはできない。
2  前項本文の場合において、金銭を返還するときは、その受領の時から利息を付さなければならない。
3  解除権の行使は、損害賠償の請求を妨げない。

建太郎「つまり、相手方が履行に着手するまでは、買主は、手付を放棄することで。売主は、手付の倍返しをすることで、契約の解除ができるということ。それから、解約手付による契約解除を行う場合は、別途、損害賠償の請求をすることができない。ということだよな」
胡桃「正解よ。それを踏まえたうえで、この設問を見ていくわよ。まず、問題文の冒頭の設例では、Aは自らの債務を履行しているけど、Bは債務の履行を拒んでいる。つまり、Bは債務不履行に陥っているということは分かるかしら?」
建太郎「ああ。分かるよ」
胡桃「債務不履行にも三つの類型があったわね。覚えているかしら?」
建太郎「履行遅滞履行不能不完全履行だね」
胡桃「そうよ。この設例では、三つの類型のうち、どれに当たるかしら?」
建太郎「履行遅滞ってことかな。決済日に、Aが自己の債務の履行を提供した以上、Bは履行遅滞に陥っていると考えるべきだ」

(履行期と履行遅滞
第四百十二条  債務の履行について確定期限があるときは、債務者は、その期限の到来した時から遅滞の責任を負う。
2  債務の履行について不確定期限があるときは、債務者は、その期限の到来したことを知った時から遅滞の責任を負う。
3  債務の履行について期限を定めなかったときは、債務者は、履行の請求を受けた時から遅滞の責任を負う。

胡桃「そうよ。そのことを理解して上で、1から見ていくわよ」
建太郎「これは常識で分かるよね。つまり、債権者としては、契約解除をしようとも、代金の支払いを求め続けようとも自由にできるってことだろう」
胡桃「確かに常識でも分かるけど、正確に見ていくわよ。履行遅滞の場合は、債権者としては、三つの手段を取り得るけど、何か覚えているかしら?」
建太郎「ええっと……。履行の強制、契約解除、損害賠償請求かな」
胡桃「そうよ。1で問題になっているのは、履行の強制ね。民法にはこうあるわ」

(履行の強制)
第四百十四条  債務者が任意に債務の履行をしないときは、債権者は、その強制履行を裁判所に請求することができる。ただし、債務の性質がこれを許さないときは、この限りでない。
2  債務の性質が強制履行を許さない場合において、その債務が作為を目的とするときは、債権者は、債務者の費用で第三者にこれをさせることを裁判所に請求することができる。ただし、法律行為を目的とする債務については、裁判をもって債務者の意思表示に代えることができる。
3  不作為を目的とする債務については、債務者の費用で、債務者がした行為の結果を除去し、又は将来のため適当な処分をすることを裁判所に請求することができる。
4  前三項の規定は、損害賠償の請求を妨げない。

胡桃「履行の強制ができるということは当然、1にあるように、残代金の支払いを請求し続けることができる。ってことね。分かるわね」
建太郎「OK」
胡桃「次、2はどうかしら?」
建太郎「2の契約解除も、履行遅滞による契約解除のことだよな。解約手付による契約解除だと、損害賠償請求はできないはずだから」
胡桃「そうよ。履行遅滞による契約解除と損害賠償請求は、同時にできるのかしら?」
建太郎「できるね。第五百四十五条3項にある通り、債務不履行を理由とする契約解除を行う場合は、『解除権の行使は、損害賠償の請求を妨げない。』ってことだろう」
胡桃「じゃあ、3はどうかしら」
建太郎「うーん。何を問う選択肢なのか、よく分からないけど、とりあえず常識で考えると……。AB間の売買契約とBC間の売買契約って別個の契約だろ。BC間の売買契約で生じた事情をAB間の売買契約に持ち込むって、おかしいんじゃない?」
胡桃「そうね。そう考えて、この選択肢は正しいという結論を出すこともできるわ。この選択肢で出題者が問いたいことは、債務不履行に陥った債務者Bが契約解除をすることができるのか。ということよ」
建太郎「債務者からの契約解除については定めがないよね。っていうことは、当事者同士の話し合いによる合意解除だけか?」
胡桃「そうね。それから、注目したいことは、手付ね。手付が交付されていれば、債務者からも契約解除ができるわね」
建太郎「あっ……そうか。この設例で言えば、Bは売主だから、手付の放棄によって、契約解除ができるね。でも、相手方Aが履行に着手している以上、Bからは、手付を放棄しての契約解除もできないね」
胡桃「そうよ。理解できたわね。じゃあ、4はどうかしら?」
建太郎「第五百四十五条1項但書にある通り、『ただし、第三者の権利を害することはできない。』ってことだよね」
胡桃「ちょっと!それで終わらせてはだめよ。この選択肢は、宅建を初めとして不動産関係の資格試験では非常に重要な論点なのよ」
建太郎「あっ……。そうか。契約解除前の第三者との関係か。危ない危ない。条文の文言そっくりだから、条文そのままの出題と勘違いするところだった」
胡桃「そうよ。問題文を一読しただけで、瞬間的に思いつかないとだめよ。確かに、第五百四十五条1項但書にある通り、第三者の権利を害することはできないんだけど、この第三者は、単に『土地を買いました』というだけで、保護されてしまうのかしら?」
建太郎「登記が必要だね。つまり、『権利保護要件』としての登記が必要になるという言い方が為される」
胡桃「そうよ。設問では、登記はしていないとあるから、Cは所有権移転登記を受けていないとみるべきね」
建太郎「ということはCは保護されないというわけか」
胡桃「分かったわね。ちなみに、契約解除後の第三者とはどういう関係になるか分かるかしら?つまり、AB間の売買契約が解除された後で、BがCに転売した場合は?」
建太郎「Aの契約解除に基づく原状回復請求権と、Cの売買契約に基づく所有権移転登記請求は、二重売買と同様の関係になるから、対抗関係になるね。先に『対抗要件として』の登記を備えた方が優先する」

(不動産に関する物権の変動の対抗要件
第百七十七条  不動産に関する物権の得喪及び変更は、不動産登記法 (平成十六年法律第百二十三号)その他の登記に関する法律の定めるところに従いその登記をしなければ、第三者に対抗することができない。

胡桃「そうね。じゃあ、この問題の答えはどれかしら?」
建太郎「4だね」


ライトノベル小説で学ぶ宅建士試験基本テキストとは?

 宅建士(宅地建物取引士)資格試験の基本テキストです。

 一般的な資格スクールのテキストとは違い、全文が小説形式で記されています。ライトノベル小説を読む感覚で、宅建士試験の勉強ができてしまうという画期的なテキストです。

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→ ライトノベル小説で学ぶ宅建士試験基本テキスト 権利関係1

→ ライトノベル小説で学ぶ宅建士試験基本テキスト 権利関係2

→ ライトノベル小説で学ぶ宅建士試験基本テキスト 権利関係3