初めての宅建士資格試験重要過去問

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宅建士試験過去問 権利関係 相殺 1-29 平成16年

Aは、B所有の土地を賃借し、毎月末日までに翌月分の賃料50万円を支払う約定をした。また、Aは敷金300万円をBに預託し、敷金は賃貸借終了後、明渡完了後にBがAに支払うと約定された。AのBに対するこの賃料債務に関する相殺について、次の記述のうち、民法の規定及び判例によれば正しいものはどれか。

1、Aは、Bが支払い不能に陥った場合は、特段の合意がなくても、Bに対する敷金返還請求権を自働債権として、弁済期が到来した賃料債権と対当額で相殺することができる。
2、AがBに対し不法行為に基づく損害賠償請求権を有した場合、AはこのBに対する損害賠償請求権を自働債権として弁済期が到来した賃料債務と対当額で相殺することはできない。
3、AがBに対して商品の売買代金請求権を有しており、それが平成16年9月1日をもって、時効により消滅した場合、Aは、同年9月2日にこのBに対する代金請求権を自働債権として同年8月31日に弁済期が到来した賃料債務と対当額で相殺することはできない。
4、AがBに対してこの賃貸借契約締結以前から、貸付金債権を有しており、その弁済期が平成16年8月31日に到来する場合、同年8月20日にBのAに対するこの賃料債権に対する差し押さえがあったとしても、Aは、同年8月31日に、このBに対する貸付金債権を自働債権として、弁済期が到来した賃料債務と対当額で相殺することができる。


胡桃「さあ。これが何の問題だか分かるわね?」
建太郎「相殺の問題だというのは分かるよ。しかし、ごちゃごちゃと設定が書かれていて、把握するのに時間がかかるな」
胡桃「それでも、合格レベルに達していれば、瞬時に答えが分かるはずよ。まず、1から見ていくわよ」


建太郎「いきなり、つまずくよ。これは要するに、敷金返還請求権を自働債権として相殺できるかどうかを問う選択肢なのか?判例あったっけ?」
胡桃「違うわ。相殺の基本を問う選択肢よ。相殺するためには、債権がどういう状況にある必要があったんだっけ?」
建太郎「相殺適状になければならないんだよな。確か、民法の……」

(相殺の要件等)
第五百五条  二人が互いに同種の目的を有する債務を負担する場合において、双方の債務が弁済期にあるときは、各債務者は、その対当額について相殺によってその債務を免れることができる。ただし、債務の性質がこれを許さないときは、この限りでない。
2  前項の規定は、当事者が反対の意思を表示した場合には、適用しない。ただし、その意思表示は、善意の第三者に対抗することができない。

建太郎「『二人が互いに』対立する債権を有していること、『同種の目的を有する債務を負担している』ことと、『双方の債務が弁済期にある』ことが要件だね。弁済期が到来している件に関しては、自働債権は絶対に弁済期になければならないけど、受働債権は自分の債務だから、弁済期が到来している必要はない。期限の利益を放棄して、弁済することができるからということじゃなかった?」

(期限の利益及びその放棄)
第百三十六条  期限は、債務者の利益のために定めたものと推定する。
2  期限の利益は、放棄することができる。ただし、これによって相手方の利益を害することはできない。

胡桃「そうよ。まさにそのことを問うのが、選択肢1なのよ」
建太郎「えっ?そんな簡単なことか……?」
胡桃「問題文をよく読んで、敷金返還請求権の弁済期はいつ到来するの?」
建太郎「あっ……。『敷金は賃貸借終了後、明渡完了後にBがAに支払うと約定された。』つまり、選択肢1の段階では、弁済期が到来していないわけか。弁済期が到来していない債権を自働債権とする相殺はできないから、この選択肢は間違いだというわけか」
胡桃「そうよ。それだけのことよ。次、2はどうかしら?」
建太郎「これは条文そのままの出題だよね」

不法行為により生じた債権を受働債権とする相殺の禁止)
第五百九条  債務が不法行為によって生じたときは、その債務者は、相殺をもって債権者に対抗することができない。

建太郎「不法行為により生じた債権を受働債権とする相殺は認められないという話だよね。自分が悪さをしておきながらその賠償を自分の持つ債権で相殺するのは、信義に反する行為だというわけだ」
胡桃「そうね。それに対して、不法行為により生じた債権を自働債権とする相殺は認められるというのが判例よ」
建太郎「要するに、自分が損害賠償請求権を行使する側ならば、その賠償請求権を自分の債務と相殺してもよいというわけだよね。被害者がそれでいいとしているならば、問題ないだろうと」
胡桃「そうよ。重要な論点だからしっかり押さえてね。次、3はどうかしら」
建太郎「自働債権が消滅時効にかかった場合、それ以前に相殺適状にあったら、その債権を自働債権として相殺してもいいという話だったよね」

(時効により消滅した債権を自働債権とする相殺)
第五百八条  時効によって消滅した債権がその消滅以前に相殺に適するようになっていた場合には、その債権者は、相殺をすることができる。

胡桃「そうね。どうしてか分かるかしら?」
建太郎「双方の債権が相殺適状に達していれば、それによって、相殺されたものと考えて、あえて請求しない人もいるからという説明がなされているよね。俺は、権利の上に眠るものは保護に値しないという原則からしておかしいと思うけどさあ」
胡桃「そういうものだと覚えるしかないわよ。次、4はどうかしら?」
建太郎「これは、何を問いたいのかよく分からないなあ。お手上げだよ。一体、どういう意味なんだ?」
胡桃「要するに自分の債務――受働債権が差し押さえを受けた場合、その受働債権を自分の有する自働債権と相殺してはいけないということよ。次の条文よ」

(支払の差止めを受けた債権を受働債権とする相殺の禁止)
第五百十一条  支払の差止めを受けた第三債務者は、その後に取得した債権による相殺をもって差押債権者に対抗することができない。

胡桃「支払いの差し止めを受けたということは、Bに対して弁済してはいけない。他の人に支払ってくださいということよ。要するに、Aから見れば、債権譲渡によって債権者が変わったようなものなのよ。なのに、旧債権者ともいうべき、Bと相殺するのは、おかしいというのは分かるかしら?」
建太郎「まあ、弁済するなら、新債権者に弁済すべきということになるな」
胡桃「そうよ。だから、Aは、支払の差止めを受けた後で、Bに対して取得した自働債権と相殺することができないというのがこの条文よ。『その後に取得した債権による相殺をもって差押債権者に対抗することができない。』の意味はそういうことよ」
建太郎「うん。分かるよ」
胡桃「問題は、支払の差止めを受ける前から有していた自働債権と相殺することもできないのかということよ。4の選択肢はそれを問うているのよ」
建太郎「つまりは、以前から自働債権を有していて、Bの賃料債権の弁済期が到来したら、相殺してやろうと考えていたかもしれない。だけど、弁済期の到来する前に支払の差止めを受けてしまった」
胡桃「そうよ。その場合、相殺を認めるべきかどうか?」
建太郎「認めてもいいんじゃない?時効により消滅した自働債権と相殺するようなものじゃん」
胡桃「そうね。判例でも、自働債権が受働債権の差し押さえ前に取得したものであれば、弁済期の前後に関わりなく、相殺適状に達すれば、支払いの差し止めを受けた後でも相殺できるとしているわ。どうしてか分かるかしら?」
建太郎「お互いに相殺する予定でいたからかな?期待権みたいなものがある?」
胡桃「難しい言葉で言えば、『相殺には、担保的機能がある』ということよ。お互いの債権を相殺することで、債権を自動的に回収したも同然の効力を生じさせるわけよ。それを保護しようというのが、時効により消滅した債権を自働債権とする相殺の制度だし、選択肢4の判例なのよ」
建太郎「うーん。なるほど、相殺って奥が深いな」
胡桃「ちょっと突っ込みすぎたわ。とりあえず、宅建では、条文と基本的な判例を押さえておけは十分よ。そういうわけで答えはどれかしら?」
建太郎「4だね」

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→ ライトノベル小説で学ぶ宅建士試験基本テキスト 権利関係1

→ ライトノベル小説で学ぶ宅建士試験基本テキスト 権利関係2

→ ライトノベル小説で学ぶ宅建士試験基本テキスト 権利関係3